蜜愛シンドローム ~ 陥溺の罠 ~【完】
「あ、絢乃。・・・加納が、15時からの第二の会議に来るように、だって」
「・・・え?」
春美の声に、絢乃は顔を上げた。
春美は相変わらずびしっと決めたスーツ姿で、サーバーのUPSを確認している。
どうやらそろそろバッテリーの交換時期らしい。
「あんたこの頃、よく第二に行ってるわよね? 大丈夫? あいつの毒牙にかかってない?」
「・・・」
絢乃は春美の言葉に、思わずうるっと泣きそうになった。
───毒牙どころか、下僕宣言されてます。
と言いたいが、言ったら卓海に『身の毛もよだつような目』に遭わされてしまう。
絢乃はアハハと乾いた笑いを上げた。
「大丈夫ですよ。・・・今のところ、何とか逃げてますから」
「・・・は?」
「もし私が討ち死にしたら、骨は拾ってくださいね? ・・・よろしくお願いします」
絢乃は言い、ノートパソコンを閉じて立ち上がった。
そのままノートパソコンと書類を手にし、廊下の方へと出ていく。
・・・その背を、春美がぽかんとした顔で見つめていた。