蜜愛シンドローム ~ 陥溺の罠 ~【完】
───その翌日。
「・・・うーん・・・」
絢乃は腕を組み、じっとパソコンの画面を見つめた。
・・・今朝も、やはりデータが消されている。
こうなると偶発的ではなく、何か原因があるに違いない。
しかし貿易システムのデータベースはセキュリティが堅牢で、絢乃はある程度のところまでしかいじることはできない。
テスト系であってもそれは同じで、本番系より多少権限は緩くなっているが、絢乃の権限では全てを操作することはできない。
データベースを全て操作するには『アドミニストレータ』の権限が必要で、この権限があれば、誰がいつデータを操作しているのかを調べることもできる。
ただしこの権限を持っているのは、社内では情報システム部の部長である澤井と、第二開発課の課長である卓海だけだ。
「・・・うぅっ・・・」
絢乃は机に突っ伏し、恨めしそうに画面を見た。
まさか部長に『権限をくれ』などと直々に頼むわけにもいかない。
となると、卓海に頼むしかないのだが・・・。
・・・卓海に頼みごとをするのはとてもイヤだ。
というか死んでもイヤだ。
けれど背に腹は代えられない。
このままでは仕事が効率よく進まない。
まるで気は進まないが、ここは卓海に頼み込むしかない。
「・・・しょうがない、行くか・・・」
絢乃はうっそりとした表情で立ち上がり、第二開発課の居室へと向かった・・・。