蜜愛シンドローム ~ 陥溺の罠 ~【完】
「・・・さてと、昨日のデータは・・・」
絢乃が見つめているのは、四角い枠や線が複雑に入り混じった、設計図のような画面だ。
絢乃はデータベースと呼ばれる、売上などのデータを溜めるためのソフトの運用を担当しており、データの状態を日々チェックしている。
専門職といえば専門職ではあるが、社内SEのため、絢乃のもとにはその他にもいろいろな仕事が回ってくる。
他課からのパソコンの修理の依頼や、伝票の作成、企画書や稟議書の作成などなど。
絢乃は画面と睨めっこしながら、じっとデータをチェックしていた。
そのとき。
「・・・あ、いた! 絢乃!」
後ろから声を掛けられ、絢乃は肩越しに振り返った。
廊下に続くドアの方から、背の高いショートカットの女性が絢乃の方へと歩み寄ってくる。
黒いスーツをぱりっと着こなした、いかにもキャリアウーマンという感じの女性で、きっちり化粧をし指先にも鮮やかなネイルが施されている。
少し茶色がかった髪をベリーショートにしているが、その顔に施された少し派手目のメイクが女性らしさを醸し出している。
杉沢春美。29歳。
絢乃と同じく、情報システム部運用課に所属している、絢乃の先輩社員だ。