蜜愛シンドローム ~ 陥溺の罠 ~【完】
<side.卓海>
絢乃が会議室を辞した後。
卓海は腕を組み、椅子の背に寄りかかった。
その目には、何かを思案するような険しい影がある。
「・・・これだから女って奴は・・・」
後で香織のデータベース権限のランクを下げておこう、と思いながら卓海は先ほどまで向かいに座っていた絢乃の顔を思い出した。
それにしても・・・。
絢乃の技術者としての技量は、不本意ながら卓海も認めるところだ。
今回の件も、絢乃だからこそアドミニ権限が必要だとすぐにわかったのだろう。
他の課員ならば、見当違いのところを延々と調べたあげく、後になって卓海に相談に来るに違いない。
正直なところ、絢乃が入社した当初は、卓海は絢乃が自分のデータベース技術者としての社内での地位を脅かす存在になるのではと思ったこともあった。
・・・女は遠慮がなく、そして自らの欲望に忠実な生き物だ。
けれど絢乃は卓海を技術者として尊敬し、貿易システム関係の仕事を着実に、そして真摯にこなしてきた。
───もっとも、今は尊敬以外に恐怖という感情も混ざっているようではあるが。