蜜愛シンドローム ~ 陥溺の罠 ~【完】
絢乃は脳裏に兄の顔を思い浮かべた。
慧を放置してしまうかも、ということより、別の心配が絢乃にはある。
慧は個人事業主をしているだけあって、人脈やコネがそれなりにある。
そしてそれを構築するために、慧は様々な人と会話し、人との縁を繋いできた。
・・・つまり。
慧はああ見えて、外ではわりと社交的なのだ。
本人の気質と合致しているのか微妙ではあるが、慧は初対面の人間とでも気軽に話すことができるし、それに何よりあの美貌だ。
慧を連れて行ったら、女子社員が放っておかないだろう。
慧は自分の容貌には全く無頓着なので、そのあたりのことをちゃんと理解しているのか、少々不安ではある。
「大丈夫かなー・・・」
絢乃は呟きながら、プシュッとプルタブを開けた。
缶を傾け、一口飲む。
その瞬間。
「・・・・っ!?」
口に広がった強烈な苦みに、絢乃は思わず咽そうになってしまった。
いつもの缶コーヒーと思って買ったのだが、よくよく見てみると。
『エスプレッソ紅茶』と缶には書いてある。
しかも『茶葉50倍の超強力抽出』とある。