蜜愛シンドローム ~ 陥溺の罠 ~【完】
「・・・な、なにこれ・・・っ」
どうやらぼうっとしていたため、よく見ずにボタンを押してしまったらしい。
絢乃は思わず口元に手を当てて呻いた。
───これは飲料と言うより劇物だ。
今はエスプレッソが流行っているらしいが、茶葉50倍はさすがにやりすぎだろう。
・・・なんだか踏んだり蹴ったりだ。
とがっくり肩を落とした絢乃の後ろで、キィとドアが開く音がし、長身の男が休憩スペースへと入ってきた。
スタイリッシュなビジネスショートの黒髪に、涼しげな切れ長の二重の瞳。
雅人だ。
雅人は缶コーヒーを片手に、絢乃の座っている方へと歩み寄ってくる。
雅人はいつも飲む銘柄が決まっており、それ以外の銘柄を飲んでいる姿はあまり見たことがない。
「どうした、秋月?」
雅人は絢乃の険しい表情に気付き、眉を微かに上げた。
やがて絢乃の視線の先にあるものに気付き、首を傾げる。
「・・・なんだ、お前にしては珍しいな。紅茶か?」
「イエその。間違ってボタンを押してしまいまして・・・」