蜜愛シンドローム ~ 陥溺の罠 ~【完】
絢乃は小さな声で言った。
・・・これを全て飲み切れる気はしない。
どうしよう、と思った時、雅人がその缶にすっと手を伸ばした。
え? と思う絢乃の前で、雅人は手にしていたコーヒーの缶を絢乃の手に押し付けた。
「交換してやる。まだこの方が飲みやすいだろう」
「・・・え、ええっ」
絢乃は驚き、渡された缶と雅人の顔を慌てて見た。
確かに、エスプレッソ紅茶よりはこのコーヒーの方が遥かに絢乃の口には合う。
戸惑う絢乃に、雅人はその眼鏡の奥の瞳を細めてくすりと笑った。
・・・その、大人の笑み。
「お前にこれは苦すぎる。・・・俺は慣れてるから平気だが」
「え、慣れてるって・・・」
「気分を変えたいときにたまに飲む。少なくとも一般向けの味ではないな。・・・俺以外に需要があるのか、疑わしい感じではあるが・・・」