蜜愛シンドローム ~ 陥溺の罠 ~【完】
雅人は言い、くいと缶を傾けた。
・・・顔色一つ変えず、二口、三口と飲むその横顔。
この劇物を表情一つ変えず飲めるというのは、絢乃にしてみれば驚きだ。
絢乃は思わずまじまじと雅人を見つめていたが、自分の飲みかけを雅人が飲んでいることに気付き、ばっと顔を赤らめた。
・・・これはいわゆる、間接キスというやつではないだろうか。
雅人はそんな絢乃を不思議そうに見つめていたが、やがて気付いたらしく、唇の端でくすりと笑った。
「・・・なんだ? 今更、そんなことが気になるような年齢でもないだろう?」
「・・・っ」
「変に反応されると、俺も気になる。・・・それとも何だ、気にした方がいいのか?」
「・・・い、いえ・・・っ」
雅人はからかうような笑みを浮かべ、絢乃を見る。
・・・その、大人の色気を帯びた、余裕の視線。
絢乃はなぜか胸がバクバクしてくるのを感じた。
雅人は普段、こんな表情を見せることはめったにない。
なのでたまにこういう表情を見ると、つい目が吸い寄せられてしまう。
雅人に恋人がいるのかどうかは定かではないが、こういう大人の色気を漂わせた眼差しは、大人の女性と付き合った経験がなければできるものではないだろう。
・・・なんとなく、そんな気がする。