蜜愛シンドローム ~ 陥溺の罠 ~【完】
慧は踵を返し、雑貨の山の中をガサガサと探り出した。
その様子を、絢乃は唖然と見つめていた。
・・・布の切れ端って・・・。
やがて慧は顔を上げ、絢乃に何やら黒いものを突き付けた。
「ハイ、これ。これを上に着れば安心だよ?」
「・・・」
絢乃は渡されたラッシュガードを手にし、はぁと息をついた。
・・・まあ確かに、上に服を着るよりはこの方が動きやすいかもしれない。
ラッシュガードは男物なので少々大きめだが、大きい分にはいいだろう。
しかし慧はいつ、ラッシュガードを買ったのだろうか。
昔の彼女と海にでも行ったことがあるのだろうか。
気になると言えば気になるが、今は旅行の準備をするのが先だ。
「・・・慧兄、靴もちゃんとしたのを履いていってよ? サンダルだけじゃダメだからね?」
「えー・・・」
「帽子もちゃんと持ってくこと! 慧兄の髪は紫外線に弱いんだから、忘れないようにね!」
・・・なんだかどちらが年上かわからない。
毎度のことではあるが・・・。
絢乃は思いつくまま次々と慧に言いながら、自分の荷物の整理を始めた・・・。