蜜愛シンドローム ~ 陥溺の罠 ~【完】
さすがに、絢乃もこの状況が何なのかはわかっている。
けれどあまりに突然すぎて、思考が追い付かない。
卓海は呆然とする絢乃を至近距離でじーっと見つめた後、やがてその茶色みを帯びた、美しい瞳をすっと細めた。
「・・・ククッ、冗談だよ」
その瞳によぎる、楽しげな影。
卓海は絢乃から体を離すと、肩を揺すって笑った。
・・・どうやら自分はまたしてもからかわれたらしい。
絢乃はカッと頬を染め、ぐっと両手を拳に握りしめた。
なぜか今になって胸がドキドキする。
絢乃は心を平静に戻そうと大きく息をつき、口を開いた。
「加納さん、慧兄とクラゲ見てたんじゃ・・・」
「クラゲね。・・・アレのどこがいいのか、オレにはさっぱりわからん」
卓海は壁に寄りかかり、呟くように言った。
・・・さっき女子社員達に見せていた態度とは全く違う、尊大な態度。
卓海は忌々しげに舌打ちし、腕を組んだ。