蜜愛シンドローム ~ 陥溺の罠 ~【完】
19:00。
絢乃は吊革に掴まり、電車に揺られていた。
絢乃が住んでいるのは川崎で、最寄は田園都市線の宮崎平だ。
宮崎平から会社がある田町までは、大井町乗り換えで約30分。
通勤にはちょうど良い距離だが、朝夕は殺人的なラッシュに巻き込まれるのが難点だ。
19時代は朝ほどではないが、それなりに人は多い。
30分後。
絢乃は宮崎平で電車を降り、改札を出た。
初夏のからっとした爽やかな風が、街路樹を揺らして吹き過ぎていく。
絢乃は駅前のロータリーを歩きながら、脇にあった洋菓子店をちらりと見た。
『ラ・アルジェラ』と看板が出ているその洋菓子店は、コンパクトな店ながら味が良く、この辺りではわりと評判だ。
「・・・あ、ロールケーキ、まだ残ってる!」
ガラスの自動ドア越しにショーケースを見た絢乃は、思わず声を上げた。
ここの店のロールケーキは兄のお気に入りで、絢乃はたまに、会社帰りに買って帰っている。
絢乃は店内に入り、ガラスケースの前に寄った。