蜜愛シンドローム ~ 陥溺の罠 ~【完】
男の力があれほどに強いものだとは、絢乃は全く予想していなかった。
どんなに抗っても、女の力では抵抗などできはしない。
結局絢乃があまりに痛がったため、最後までは出来なかったが、あの時の経験は今でもひりつくような痛みとともに絢乃の胸に残っている。
しかし絢乃の心を本当に痛めつけたのは、祐司のその時の言葉だった。
『・・・なんだよ、一緒に海に来たってことは、お前も承知してたんじゃないのかよ?』
『・・・っ』
『気を持たせやがって。それに、ちょっとカオが良くても、濡れない女なんて最悪だ』
───その言葉は、絢乃の心を深く鋭く切り裂いた。
今思えば、初めての交わりが上手くいかなかったことが祐司の男としてのプライドを傷つけ、ああいう言葉を言わせたのだと・・・そう、思わなくもない。
けれど当時、その言葉を聞いた絢乃は、身を切られるような自責の念にかられた。
・・・自分が、悪いのだろうか・・・
自分の体は、性行為には向いてないのかもしれない・・・
一度植えつけられてしまった先入観は、それからずっと絢乃を苦しめ続けている。
普段は仕事などで忙殺されてそれについて考えることはほとんどないが、こういう思い出の品を見ると、やはり思い出さずにはいられない。
もちろん絢乃も、世の中にそんな男ばかりではないことは知っている。
慧は失恋した絢乃を優しく見守ってくれたし、雅人も恐らく、付き合う女性には真摯な態度で接するだろう。
・・・卓海については何とも言えないが。