蜜愛シンドローム ~ 陥溺の罠 ~【完】
唖然とする絢乃の前に、その美少女は優雅な足取りで歩み寄ってくる。
ピンクのTシャツにジーンズの短パンというラフな格好ではあるが、そのスタイルの良さは一目瞭然だ。
しかし美少女の後ろに続いて絢乃の方に歩み寄ってきた卓海は、苦虫を噛み潰したような渋い顔をしている。
卓海がこんな表情をすることは珍しい。
・・・ん?
と首を傾げた絢乃に、美少女はにこりと笑って言った。
「はじめまして。私は加納千尋。ここにいる性悪な愚兄の妹です」
「・・・」
美少女──千尋の自己紹介に、絢乃はあんぐりと口を開けた。
・・・この可憐な唇から出たとは思えない言葉。
しかし次に続いた言葉に、絢乃はさらにぽかんと口を開けた。
「絢乃さんのことは兄から伺っております。・・・絢乃さん、この愚兄に代わり、私から謝らせてください。日々多大なるご迷惑をおかけし、本当に申し訳ございません」
千尋は言い、その艶やかな髪を揺らして深々と頭を下げた。
───へ?
と唖然とした絢乃の前で、千尋はやがてゆっくりと顔を上げ、絢乃の顔を正面からじーっと見つめる。
・・・卓海によく似た、茶色みを帯びた美しい瞳。
しかし、なんというか・・・ちょっと、普通ではない。
驚きのあまり何も言えない絢乃に、千尋はすっと一歩近づいた。