蜜愛シンドローム ~ 陥溺の罠 ~【完】
5.紳士
一時間後。
絢乃は食材の入った箱を両手に持ち、ホテルの裏口とバーベキュー会場の間を何度も往復していた。
・・・さすがに60人もいると、食材の量も相当だ。
ちなみに雅人は裏口の近くで、食材やら飲み物やら、アクティビティやらの取り纏めを行っている。
絢乃と同じくラッシュガードを身に着けているが、その雰囲気は会社で課長として部下に指示を出すときと全く同じだ。
「・・・3番テーブルに磯焼きのセットを5人前、そして5番テーブルにビールを10本」
「はいっ、了解しました!」
幹事ではないが、なぜか名取も幹事の仕事を手伝っている。
しかし食材や機材の運搬は想像以上に重労働なので、正直なところ、かなり助かっている。
絢乃は額から落ちる汗をタオルで拭き、磯焼きセットが入った箱を持ち上げた。
───熱さのせいか、頭がちょっとクラッとする。
「・・・おい、大丈夫か、秋月?」
「あ、はい、平気です」