蜜愛シンドローム ~ 陥溺の罠 ~【完】



「いらっしゃいませ~」

「このモカロールをひとつください」

「畏まりました~」


店員はにこやかな笑顔で手際よくロールケーキを包んでくれた。

会計を終えた後、絢乃はケーキの箱を片手に洋菓子店を出、家の方へと歩き出した。

絢乃の家は駅から徒歩10分ほどのところにある5階建てマンションの5階で、今は兄の慧とともに暮らしている。

・・・やがて10分後。

絢乃はマンションの前に着いた。

玄関をくぐり、エレベーターに乗る。

鍵を開け、ガチャっとドアを開けると、奥からパタパタと足音がした。


「アヤ、おかえり~」


と言い、絢乃を玄関で出迎えたのは・・・


秋月慧。28歳。

絢乃の兄で、今は個人事業主として在宅でシステム系の仕事をしている。

在宅のため、いつも洗いざらしのジーンズにシャツというラフな格好だが、そのシンプルな格好が逆に生来の美貌を引き立たせている。

───少し長めのさらっとした黒褐色の髪に、春の陽光を思わせる優しげな二重の瞳。

肌は抜けるように白く、その端正で整った顔立ちとすらっとした長身はまるでモデルのようだ。


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