蜜愛シンドローム ~ 陥溺の罠 ~【完】
「はい、これ磯焼きセット。ここに置いておくから」
「・・・えっ、アヤ、食べていかないの?」
「いろいろやることがあって・・・っととっ」
言いかけた絢乃だったが、問答無用でぐいと腕を引かれ、慧の横に立たされた。
思わずはっと見上げた絢乃の前で、慧は上機嫌な様子で菜箸を操る。
───その、手慣れた動き。
土日に慧と一緒にキッチンに立つ時に見るものと全く同じだ。
「お前、イカ好きだろ? もうすぐ焼けるから」
「・・・う、うん・・・」
「あ、この豚トロはもう良さそうだね。ほら、食べなよ」
慧は近くにあった紙の皿を取り、手早く載せる。
戸惑う絢乃に、慧は割り箸を取って渡した。
・・・その、実に嬉しそうな、朗らかな笑顔。
既に慧の意識は、絢乃にしか向いていない。
自分が大事にされている、というのを実感しつつも・・・。
「・・・」