蜜愛シンドローム ~ 陥溺の罠 ~【完】
慧は街を歩くだけで振り返らない女はいないというレベルの容貌だが、本人は自身の容貌には全く無頓着で、髪型や服にもまるでこだわりがない。
絢乃が何も言わないと、髪は伸び放題、服はヨレ放題というとんでもない状態になる。
今も、慧のシャツは第四ボタンをかろうじて留めてある程度で、胸元が半分以上露わになっている。
絢乃は昔からのことなので慣れているが、初対面の女性が見れば絶叫ものだろう。
こんなに綺麗なのにもったいない、と妹としては思わないこともないが、昔からそうなので絢乃も今は諦めている。
「・・・慧兄さ。せめて第二ボタンまでは締めてよ? 私だからいいようなものの、これが宅急便とかだったら変質者かと思われるよ?」
「え? 別にいいじゃん。家にいるんだしさ。逆に目の保養でしょ~」
「・・・・」
「それに、世の中に同じ人間は二人といないんだよ? そういう観点で言えば、どの人間も『変質』者じゃない?」
「ヘンな屁理屈を言わないのっ!」
と言い、絢乃は手にしていた箱をぐいと差し出した。
それを見、慧がはっと目を丸くする。
「はい。これ、おみやげ」
「え? ・・・ひょっとして、アルジェラのロールケーキ?」
慧は絢乃が差し出した箱をまじまじと見る。