蜜愛シンドローム ~ 陥溺の罠 ~【完】
<side.慧>
───すぅ、と絢乃が寝息を立て始めたあと。
慧ははぁと息をつき、目元を片手で覆った。
まさか、絢乃が倒れるとは思ってもみなかった。
絢乃は責任感が強く、多少無理をしてでも頼まれたことはやり遂げる性格だ。
恐らく今日も、自分が脱水症状を起こしていることに気付かずに、作業をしていたのだろう。
・・・あの時。
救護室に駆け込んだ慧は、ストレッチャーに横たえられた絢乃の姿に身が凍るような思いがした。
絢乃の意識があったことが幸いだったが、もし意識がなければ、そのまま救急車を呼んでいただろう。
横たわったまま慧に視線を向けた絢乃の横で、雅人が軽く状況を説明した後、慧に頭を下げた。
『・・・俺の監督不行き届きだ。申し訳ない』
・・・その、潔い態度。
その横で絢乃は慌てて何かを言おうとしたが、雅人がそれを軽く手で制した。
そしてそんな二人を見、慧の心に一気に黒いものが広がった。
───絢乃は、雅人を信頼している。