蜜愛シンドローム ~ 陥溺の罠 ~【完】
これまで、絢乃が心から信頼していた男は慧だけだった。
しかし、今・・・
絢乃は、雅人を信頼している。
上司としてだけではなく・・・人間として、男として。
それを目の当たりにし、慧は胸を引き裂かれるような思いがした。
絢乃は大学の時、初めての彼氏との付き合いで深い心の傷を負った。
その傷は、まだ癒えてはいない。
慧は横たわる絢乃を見つめながら、ぐっと唇を噛みしめた。
───今、絢乃は自分から離れて自立しようとしている。
モラトリアムの終わりが近いことを、絢乃も感じているのだろう。
・・・絢乃が傍にいるだけで、自分は幸せだった。
けれどこの先、二人は違う道を歩いていくのだろう。
そしていつか、慧以外の違う誰かが、絢乃の心の傷を癒すのだろう。
それを思うだけで、気が狂いそうになる。
絢乃が、自分以外の男の手を取った時。
───自分は、耐えられるのだろうか・・・。