蜜愛シンドローム ~ 陥溺の罠 ~【完】


果樹園に入った絢乃は、くるっと辺りを見渡した。

・・・どうやら皆、興味がある果物の方へとバラバラに向かったようだ。

絢乃は入り口で貰ったパンフを広げ、園内図を見た。


「えっと、桃は・・・」


まずは、オーソドックスなところで桃からだろうか。

と、桃園の方に足を向けた絢乃だったが。

背後に何者かの気配を感じ、びくっと背筋を強張らせた。

・・・この、甘く透明感のあるフゼアの香りは・・・。


「・・・おい、幹事。こんなところで何してるんだ」


何してるって・・・

恐る恐る振り返った絢乃の目に映ったのは、腕を組んでうっすらと微笑んだ卓海の姿だった。

───朝だと言うのに相変わらず凶悪で性悪な微笑み。

一体どんな精神状態なら、朝からこんな黒い笑みを浮かべることができるのだろうか。

などとつい考えてしまう。

思わず一歩後ずさった絢乃の腕を、卓海はがしっと掴んだ。


「ほら、行くぞ。まずはイチジクだ」

「・・・え、ええーっ・・・」


私は桃に行きたいのですが・・・・

と言える状況では既にない。

絢乃は無理やり引きずられるように、イチジク園の方へと連行された・・・。

< 268 / 438 >

この作品をシェア

pagetop