蜜愛シンドローム ~ 陥溺の罠 ~【完】
果樹園に入った絢乃は、くるっと辺りを見渡した。
・・・どうやら皆、興味がある果物の方へとバラバラに向かったようだ。
絢乃は入り口で貰ったパンフを広げ、園内図を見た。
「えっと、桃は・・・」
まずは、オーソドックスなところで桃からだろうか。
と、桃園の方に足を向けた絢乃だったが。
背後に何者かの気配を感じ、びくっと背筋を強張らせた。
・・・この、甘く透明感のあるフゼアの香りは・・・。
「・・・おい、幹事。こんなところで何してるんだ」
何してるって・・・
恐る恐る振り返った絢乃の目に映ったのは、腕を組んでうっすらと微笑んだ卓海の姿だった。
───朝だと言うのに相変わらず凶悪で性悪な微笑み。
一体どんな精神状態なら、朝からこんな黒い笑みを浮かべることができるのだろうか。
などとつい考えてしまう。
思わず一歩後ずさった絢乃の腕を、卓海はがしっと掴んだ。
「ほら、行くぞ。まずはイチジクだ」
「・・・え、ええーっ・・・」
私は桃に行きたいのですが・・・・
と言える状況では既にない。
絢乃は無理やり引きずられるように、イチジク園の方へと連行された・・・。