蜜愛シンドローム ~ 陥溺の罠 ~【完】
慧は昔から甘いものが好きで、特にロールケーキには目がない。
絢乃が差し出した箱を受け取ると、慧はにこりと笑って言った。
「ありがと、アヤ。嬉しいよ!」
「どういたしまして」
兄の笑顔に、絢乃も頬を緩ませた。
兄は昔からちょっとクセはあるが、根は明るい性格で、28になった今もどこか少年ぽいところがある。
兄は絢乃と同じくシステム系の仕事をしており、システムアーキテクトとITストラテジスト、そして各種のベンダー資格を持っている。
どれも相当な難関資格で、仕事面では恐ろしいぐらいに有能なのだが・・・。
絢乃がシステムの道を志したのも、そんな兄の姿を間近で見、自分もこんな風に仕事がしたいと憧れを抱いたからだ。
そして今も、兄は絢乃の仕事上の良き相談相手であり、教師であり、アドバイザーでもある。
───ちなみに。
慧は絢乃の兄ではあるが、慧は絢乃の母・時世の姉の息子なので、血縁的には従兄ということになる。
慧の母・昌美はシングルマザーで慧を生んだ後、慧が3歳の時に病気で亡くなった。
そのため、一人になった慧を叔母である時世が引き取り、二人を兄妹として育てた。
もっとも、二人は絢乃が10歳になる頃まではとてもよく似ていたので、絢乃は幼い頃から慧が自分の実の兄であると信じて疑っていなかった。
絢乃が事実を知ったのは中学の頃だったが、それからもずっと、二人は兄妹として仲良く育ってきた。