蜜愛シンドローム ~ 陥溺の罠 ~【完】
───やがて数分後。
絢乃がイチジクをひとつ食べ終わった時、入り口の方からパタパタと誰かが駆けてくる足音がした。
「・・・あぁ、ここにいたのか、アヤ!」
声とともに、慧が顔を出した。
慧は大股で二人が座ったテーブルに歩み寄り、椅子を引いて絢乃の隣に座る。
「・・・お兄様のお出ましか」
と呟いた卓海には目もくれず、慧は絢乃に向き直った。
「お前、最初は絶対桃だろうって思ってたから、桃園で待ってたんだけど」
───やはり慧は絢乃のことをよくわかっている。
この目の前の男とは雲泥の差だ。
ごめん、と言った絢乃の前で、慧もイチジクに手を伸ばす。
「・・・オイ、それはオレがコイツのために取ったやつだ」
「わかってるよ。ほら、アヤ?」
慧はイチジクを手際よく割り、絢乃に差し出す。
それを見、卓海はげんなりした顔をした。