蜜愛シンドローム ~ 陥溺の罠 ~【完】
「・・・どんだけ過保護なんだよ、おい」
「過保護で結構。アヤは病み上がりだ。本当なら、こんな瘴気を漂わせた男の傍に置いておくのもイヤなんだけどね?」
にこりと笑い、慧は言う。
いつもの少年ぽい朗らかな微笑みだが、なぜか見ていると薄ら寒いものを感じる。
それは卓海も同じだったらしく、憮然とした表情で言った。
「・・・なんかお前、このごろ千尋と似てきてないか?」
「千尋ちゃんと? ・・・似ているかどうかはよくわからないけど、お前に対する評価という点では似ているかもしれないね?」
慧はくすりと笑って言う。
どうやら、慧は千尋を知っているらしい。
しかし、昨日の言動を見る限り、千尋は相当な男嫌いだと思うのだが・・・。
と不思議に思った絢乃に、卓海はため息交じりに言う。
「アイツは男嫌いだが、例外もある。コイツのように顔がキレイな男は例外らしい」
「・・・へっ?」
「まあ、男として認めてるというよりは、鑑賞物として認めてるって感じだけどな」
・・・なんだかそれもすごいような気がする。
しかし、兄妹でどれだけ捻くれているのか・・・。
卓海も相当だが、千尋も相当だ。
絢乃は目の前で繰り広げられる二人の会話を聞きつつ、慧に渡されたイチジクを口元に運んだ。