蜜愛シンドローム ~ 陥溺の罠 ~【完】
「・・・ダメだ、もう溶けるっ」
「焦るんじゃないよ、卓海。ほら、中に入れなよ。・・・そう、もっと奥だよ」
「でも、もう・・・ダメだ、間に合わないっ」
「焦っちゃダメだって。まだ大丈夫だから。ほら、落ち着いて?」
───これは紛れもなく、慧と卓海の声だ。
絢乃は血の気が引いた顔でその場に立ち尽くしていた。
・・・ふと、隣を見ると。
雅人も同じく、血の気が引ききった顔で立ち尽くしていた。
目を見開き、呆然と襖を凝視している。
「・・・秋月、・・・お前の兄と、加納は・・・」
「・・・北條さん?」
「・・・・・・・・・・」
「頼むからそこで無言にならないでください! 北條さんっ!!」
と思わず叫ぶように言った絢乃の前で、襖の向こうからさらに声がする。
絢乃はヒィと背筋を強張らせた。
───が。
「いくらバター醤油って言っても、バター多すぎだろ? 牡蠣の殻から溢れてるぞ!?」
「いいんだよ。アヤはバター多めの方が好きなんだ。醤油はちょっとでいい」
「だがなぁ・・・」