蜜愛シンドローム ~ 陥溺の罠 ~【完】




「・・・ダメだ、もう溶けるっ」

「焦るんじゃないよ、卓海。ほら、中に入れなよ。・・・そう、もっと奥だよ」

「でも、もう・・・ダメだ、間に合わないっ」

「焦っちゃダメだって。まだ大丈夫だから。ほら、落ち着いて?」


───これは紛れもなく、慧と卓海の声だ。

絢乃は血の気が引いた顔でその場に立ち尽くしていた。

・・・ふと、隣を見ると。

雅人も同じく、血の気が引ききった顔で立ち尽くしていた。

目を見開き、呆然と襖を凝視している。


「・・・秋月、・・・お前の兄と、加納は・・・」

「・・・北條さん?」

「・・・・・・・・・・」

「頼むからそこで無言にならないでください! 北條さんっ!!」


と思わず叫ぶように言った絢乃の前で、襖の向こうからさらに声がする。

絢乃はヒィと背筋を強張らせた。

───が。


「いくらバター醤油って言っても、バター多すぎだろ? 牡蠣の殻から溢れてるぞ!?」

「いいんだよ。アヤはバター多めの方が好きなんだ。醤油はちょっとでいい」

「だがなぁ・・・」


< 285 / 438 >

この作品をシェア

pagetop