蜜愛シンドローム ~ 陥溺の罠 ~【完】
卓海の言葉に、絢乃は驚き息を飲んだ。
───慧の過去の彼女については、これまで聞いたことがない。
しかしまさか、角倉沙耶と付き合っていたとは・・・。
角倉沙耶は2、3年前から売り出し中の女優で、最高学府卒ということをウリにして、バラエティでも活躍している。
ちなみに『タイムショッカー』は金曜のゴールデンタイムにやっているクイズ番組だ。
クイズに失敗するとショッカーが現れて出演者を連れ去るという奇抜な演出が話題を呼び、今、巷で話題になっている。
絢乃は驚き、隣に座る兄をまじまじと見てしまった。
慧は絢乃の視線の先で、苦笑して言う。
「・・・昔の話ですよ。大学の頃のね」
「でも、今でもたまに会ってるんだろ? オレの知り合いが角倉沙耶の友人なんだが、そんなことを言っていたぞ?」
「会うと言っても、年に一、二回かな。近況報告を兼ねてお茶をするだけだよ」
慧はため息交じりに言う。
絢乃はさらに驚き、思わず仰け反ってしまった。
・・・まさか、慧と角倉沙耶が会っていたとは。
全く想像だにしていなかった。
唖然と見上げる絢乃の視線の先で、慧はひとつ息をつき、片肘をついて卓海を見る。