蜜愛シンドローム ~ 陥溺の罠 ~【完】
「・・・北條さんはどうなんですか? あまりこういう話をしたことがないので、聞いていいかどうかわからないですけど」
「俺か。・・・今はいない。もっとも、一年後にはどうなってるかわからないがな」
雅人は日本酒を一口飲み、淡々と言う。
・・・一年後?
絢乃は首を傾げた。
そんな絢乃をちらりと見、雅人はふっと睫毛を伏せる。
・・・その眼差しによぎる、かすかな影。
なんだろう、と思った絢乃の視線の先で、雅人はそれを振り払うように再び視線を上げた。
「彼女と呼べる存在かは微妙だが、過去に女がいたことはある。かなり昔の話だがな」
「へぇ~。・・・ちなみに年上ですか? 年下ですか?」
「両方だ」
雅人の言葉に、絢乃は内心でなるほどと頷いた。
なんというか・・・雅人は『正しい女性遍歴』がありそうな気がする。
───卓海とは違って。
卓海の場合は、『幼女ですか? 老婆ですか?』と聞いてもそれなりの返答が返ってくるだろう。
・・・そんな気がする。
そして慧は・・・さっきの会話で過去の彼女について初めて知ったため、何とも言えない。
卓海のようにヘンな女性遍歴があるとも思えないが、元カノが角倉沙耶というのはちょっと普通ではない気もする。