蜜愛シンドローム ~ 陥溺の罠 ~【完】
七章
1.新しい仕事
翌月。
10月の上旬。
絢乃は経理部主催の打ち合わせに参加していた。
経理部で使用しているシステムは主に財務・管理会計システム、固定資産システムなどだが、今度会計の基準が変わるため、その対応をしなければならない。
これらのシステムはグランツの基幹システムの中に組み込まれているため、特に絢乃達が対応する必要はないが、会計基準変更の影響は物流システムや貿易システムにも及ぶ。
「一番大きな問題は、売上を計上するタイミングが変わることですね」
経理部の森村課長がホワイトボードに書きながら説明する。
森村課長は白髪交じりで恰幅が良く、経理の道30年のベテランだ。
森村課長の説明によると・・・・
今はロジから店舗向けに商品を出荷した時点で『本部売上』を計上しているのだが、それが会計基準の変更により、店舗に届いた時点で売上を計上するようにしなければならない。
・・・らしい。
「・・・となると、物流システムから店舗システムに、着荷予定のデータを送る必要があるということですね?」
向かいの席に座った雅人が、銀縁眼鏡を指先でくいと上げながら確認する。
森村課長は軽く頷き、雅人の方を見た。