蜜愛シンドローム ~ 陥溺の罠 ~【完】
2.課長命令
この時間の湘南新宿ラインは、会社帰りのサラリーマンで混雑している。
もちろん座ることはできず、絢乃と雅人は車両の隅の方に立つことにした。
・・・混みあっているせいか、距離が近い。
微かに香るクールなグリーンノートの香りに、絢乃はなぜかドキッとし、慌てて俯いた。
雅人と一緒に居ると、組合旅行でのことをつい思い出してしまう。
あのとき、雅人は絢乃に手早く応急処置をしてくれた。
そして・・・。
「・・・」
あのことを思いだすと、胸の中がなぜか燻るように熱くなる。
・・・雅人にしてみれば、たいしたことではないのかもしれない。
雅人は慰労会で、年下の女性とも、年上の女性とも付き合ったことがあると言っていた。
恐らく、そんな雅人からしてみれば絢乃は子供のようなものだろう。
子供の胸を見たところで、何も思うところはないはずだ。
・・・多分。
などと思っていた絢乃の隣で、雅人が口を開く。
「秋月。今日のセミナーの内容だが、売上基準が変更されると月跨ぎの出荷の際に影響が出る」
「はい」
「恐らく、会計に渡すデータにも影響が出るはずだ。その部分のバッチの処理を、調査しておいてほしい。可能であれば、明日の午後までに頼む」
「はい、わかりました」