蜜愛シンドローム ~ 陥溺の罠 ~【完】
あの店の料理は美味しかった。
また食べたいとは思うが、ランチの値段は結局わからなかったため、夜に行ったら幾らぐらいかかるのかわからない。
・・・今、財布にいくらぐらい入ってたっけ・・・
などと考えていた絢乃に、雅人が苦笑して言う。
「今日は俺の誘いだ。財布の心配はするな」
「え、でも・・・」
「俺はここで何時間も立ちっ放しで時間を潰すより、どこか落ち着いたところで食事でもしながら時間を潰したい」
「・・・」
「お前がそれに付き合ってくれると、俺としてはありがたい。一人でとる食事ほど味気ないものはないからな。・・・どうだ?」
雅人の言葉に、絢乃は目を丸くした。
・・・つまり。
雅人は奢ってくれるつもり、らしい。
しかし、前回も奢ってもらったのにまた奢ってもらうのはさすがに悪い。
それに、絢乃も異性に食事を奢ってもらうことの意味はさすがに理解している。
もちろん、雅人は上司であるため、そういった意味合いで誘っているわけではないとは思うのだが・・・。
戸惑う絢乃を雅人はしばし見つめた後、ひとつ息をついて口を開いた。
「・・・では課長命令ということにするか? それならお前も文句ないだろう」
「え・・・っ」
「命令だ。行くぞ」
言葉とともに、問答無用で腕を掴まれる。
・・・いつになく強引なその態度。
その強引さに絢乃はちょっとドキッとしながら、雅人の後に続いてロータリーを出た。