蜜愛シンドローム ~ 陥溺の罠 ~【完】
「ラム・デュポネとキール・ロワイヤルを頼む」
「畏まりました」
店員は静かな所作で一礼し、カウンターの方へと戻っていく。
驚き、無言の絢乃に雅人はひとつ息をつき、口を開く。
「・・・お前、慧君と食事に行くことはないのか?」
「たまにありますけど・・・」
「慧君と行く時も、同じ感じなのか? まさか割り勘ということはないだろうが」
「え・・・っ」
なぜそこで、慧の話が出てくるのか。
絢乃は不思議に思いつつ、慧と数か月前に食事に行った時のことを思いだした。
慧はいつも、外食に行くと絢乃がトイレなどで席を外している間に支払いを済ませている。
たまには私が出すよと言っても、『いいよ。どうせ食費から出してるしね』と言い、絢乃に支払わせようとはしない。
そもそも食費も慧が出しているので、結局慧に奢ってもらっているということになるのだが・・・。
「・・・まあいい。とにかく、あまり考えるな。今日は好きなものを頼め」
「は、はい・・・」