蜜愛シンドローム ~ 陥溺の罠 ~【完】
よくわからないが、雅人がそう望むなら、あまり遠慮するのも失礼だろう。
絢乃は頷き、フォークとナイフを手に取った。
前菜はアスパラガスと帆立のカルパッチョで、レモンとブラックペッパーの風味が口の中に広がり、新鮮で美味しい。
やがて飲み物が運ばれ、キール・ロワイヤルが絢乃の前に置かれた。
「この間の慰労会で、カシスを飲んでいたからそれを頼んでみたのだが」
どうやら、このカクテルはカシスをシャンパンで割ったものらしい。
一口飲んだ絢乃は、その飲みやすさに驚き、思わずまじまじとグラスを見てしまった。
「・・・どうした?」
「あ、いえ。とても美味しいです」
絢乃は言い、口元に笑みを浮かべた。
・・・やはり、雅人は大人だ。
技術者としての経験値のみならず、社会人としての経験値が絢乃とは違う。
技術者として、人として・・・。
まだまだ、雅人に学ぶべきことはいろいろある。
もっといろいろな経験をして、5年後には自分も後輩から尊敬されるような社会人になりたい。
絢乃は雅人に対する尊敬の念が深まっていくのを感じながら、運ばれてくる料理を楽しんだ。