蜜愛シンドローム ~ 陥溺の罠 ~【完】
3.牽制
<side.雅人>
───二時間後。
雅人はビルの前でタクシーを拾った。
どうやら混雑のピークは過ぎたようで、タクシーも何台か走っている。
そのうちの一台を捕まえ、後部座席に絢乃を乗せた。
その隣に自身も乗り込む。
「・・・えっ、あの・・・っ」
「電車はまだ遅れている。タクシーで帰った方が早い。どうせ川崎を通る、一緒に乗って行け」
雅人が強い口調で言うと、絢乃は何か言いかけた言葉を止め、じっと雅人を見た。
・・・その、心底申し訳なさそうな顔。
雅人がこれまでに付き合ってきた女とは全く違う、その性格。
もちろん、恋人と部下とでは、雅人との関係性は根本的に違うのだが・・・。
雅人はその黒い瞳をちらりと見た後、タクシーの運転手に手早く告げた。
「まずは宮崎平の方へ向かってくれ」
「畏まりました」