蜜愛シンドローム ~ 陥溺の罠 ~【完】
雅人はシートに背を沈め、鞄から携帯を出した。
手早くボタンを操り、届いているメールを確認する。
・・・秘書の金田から届いているメールが、3通。
金田は雅人の私的な秘書だ。
金田は主に、北條財閥絡みの連絡や調整を行ってくれている。
『英人様より、夏子様のお誕生日会について日程を調整したいと連絡が来ております』
英人は雅人の2つ下の弟で、今は北條建機で専務の座についている。
弟は母の夏子のお気に入りで、今でも月に一度は母の住む葉山の別荘に顔を出しているらしい。
雅人は脳裏に弟の顔を思い浮かべた。
弟は昔から神経質な性格で、雅人とはあまりそりが合わず、この数年は会うこともめったにない。
雅人は次のメールを開いた。
『博人様ご紹介の、木戸咲良様からこの間の御縁談の返事がございました。ぜひ進めたいとのことです』
メールを見、雅人は内心で重いため息をついた。
・・・北條を継ぐのであれば、結婚が大前提となる。
と父に言われたのは、今から半年ほど前のことだ。
そしてそれから、雅人のもとには縁談の話が次々と舞い込んでくるようになった。
どうやら父が裏でいろいろと手を回したらしい。