蜜愛シンドローム ~ 陥溺の罠 ~【完】



『半人前の人間を、北條の役員達は承認しないだろう。わしの跡を継ぐのであれば、結婚は大前提だ。来年の役員改選の前までに、身を固めておけ』


雅人の父・博人は北條商事の社長をしており、雅人はその跡を継ぐよう、物心ついたときから父に言われてきた。

雅人もそのつもりで心身の研鑽を積んできたのだが・・・。

ちなみに、グランツ・ジャパンに入社したのもその一環だ。

───人を動かす、ということの意味を身をもって体験すること。

マネジメントの本をいくら読んでも、実際に自分で実践してみないことには自らの力にはならない。

そのため、雅人は北條の系列会社ではなく、全く分野の違う会社を敢えて選んだ。

系列会社では雅人の顔は知れ渡っており、それはマネジメントを学ぶ上で障害になるからだ。

そして雅人の望むとおり、グランツ・ジャパンでは様々なことを学ぶことができた。

・・・しかし。

こと結婚となると、自分の思惑だけでは進まない。

雅人はパタンと携帯を閉じ、鞄にしまった。

・・・見ると。

酒が入って眠くなったのか、絢乃が隣でうつらうつらしている。


「・・・」


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