蜜愛シンドローム ~ 陥溺の罠 ~【完】
入り口からゆっくりと歩いてくるその男の姿に、雅人は眉を顰めた。
・・・慧だ。
雅人は一瞬絢乃を起こそうかと思ったが、絢乃は疲れていたらしく、爆睡している。
───ここまで爆睡していると起こすのも躊躇われる。
雅人はタクシーの運転手にドアを開けてもらい、絢乃を起こさないよう注意しながら、そっとタクシーから下りた。
「すみません、北條さん。また妹がご迷惑をおかけして・・・」
と言った慧に、雅人は軽く首を振って言った。
「良く寝ている。このまま部屋まで連れて行ったほうがいいだろう」
「ええ」
慧は絢乃の鞄を後部座席の足元から取った後、絢乃を軽々と抱き上げた。
慧は一見細く見えるのだが、それなりに力はあるらしい。
慧は絢乃を抱き上げた後、じっと雅人を見つめた。
その、真剣で・・・そしてどこか、挑むような瞳。
「・・・北條さん。妹は貴方のことを信頼しています。だからあえて、言わせて頂きたいのですが・・・」