蜜愛シンドローム ~ 陥溺の罠 ~【完】




入り口からゆっくりと歩いてくるその男の姿に、雅人は眉を顰めた。

・・・慧だ。

雅人は一瞬絢乃を起こそうかと思ったが、絢乃は疲れていたらしく、爆睡している。

───ここまで爆睡していると起こすのも躊躇われる。

雅人はタクシーの運転手にドアを開けてもらい、絢乃を起こさないよう注意しながら、そっとタクシーから下りた。


「すみません、北條さん。また妹がご迷惑をおかけして・・・」


と言った慧に、雅人は軽く首を振って言った。


「良く寝ている。このまま部屋まで連れて行ったほうがいいだろう」

「ええ」


慧は絢乃の鞄を後部座席の足元から取った後、絢乃を軽々と抱き上げた。

慧は一見細く見えるのだが、それなりに力はあるらしい。

慧は絢乃を抱き上げた後、じっと雅人を見つめた。

その、真剣で・・・そしてどこか、挑むような瞳。


「・・・北條さん。妹は貴方のことを信頼しています。だからあえて、言わせて頂きたいのですが・・・」



< 320 / 438 >

この作品をシェア

pagetop