蜜愛シンドローム ~ 陥溺の罠 ~【完】
───その、固く冷ややかな声。
慧の表情にもいつもの明るさはない。
そして続いた言葉に、雅人は息を飲んだ。
「妹のためを思うなら、これ以上、妹には近づかないで下さい」
慧は低い声で言う。
・・・剣の切っ先のように鋭い、その視線。
背筋を強張らせた雅人に、慧は続けて言った。
「もちろん、上司として、という意味ではありません。男として、という意味です」
「・・・どういうことだ?」
と、訝しげに慧を見た雅人に。
慧は低い声で続けた。
「妹と貴方は、違う世界に住んでいる。そしてそのことを、妹は知らない」
慧の言葉に、雅人は再び息を飲んだ。
慧はじっと、正面から雅人を見据えている。
───全てを見透かそうとするかのような、深く真剣な瞳。
その視線から、雅人は慧が雅人の素性を知ったことを悟った。