蜜愛シンドローム ~ 陥溺の罠 ~【完】
雅人の素性は会社では公にしていないが、世間的には特に隠してはいない。
その気になれば、いくらでも調査することは可能だ。
慧はふっと視線をそらし、絢乃を抱き直して言った。
「下手に期待させ、後で裏切るようなことになったら、おれは貴方を許せません。・・・貴方がそういう人間ではないと、おれは信じたい」
「・・・慧君・・・」
「もしそのつもりであれば、妹に全てをお話し下さい。その上で妹があなたの傍にいることを望むのであれば、おれは何も言いません」
「・・・」
「そのつもりがないのであれば、これ以上、妹には近づかないで下さい」
慧は鋭い瞳でじっと雅人を見つめる。
組合旅行の時には全く見せなかった、その鋭い瞳。
・・・きっとこれもまた、この男の本質なのだろう。
慧は軽く一礼した後、絢乃を抱きかかえ、マンションの入り口の方へと歩いて行った。
その後ろ姿をしばし見つめた後、雅人はタクシーに戻り、発進させた。