蜜愛シンドローム ~ 陥溺の罠 ~【完】
タクシーは再び高速に乗り、夜闇の中を走って行く。
雅人は窓の外に流れる夜景を見ながら、軽く息をついた。
・・・あの、組合旅行の時。
救護室で絢乃が見せたあの瞳に、雅人は心を鷲掴みにされた気がした。
いつも絢乃は会社では真面目な態度で、そして時には強気な態度で雅人に接してきた。
けれどあの時絢乃が見せたのは、何かに怯えるような、ひどく頼りなげな表情だった。
・・・何かに傷つき、怯えていたあの瞳。
あの時は急いで応急処置をしていたため、あまり考える余裕はなかったのだが・・・
夜、自室で絢乃のあの瞳を思い出すと、なぜかそれが脳裏から離れなくなった。
そしてあの瞳を思い出すと、雅人の心の中に激しい感情が湧き上がる。
それは・・・。
───絢乃の全てを知りたい、という強い欲望。
そして・・・
絢乃を守るのは自分でありたい、一番傍にいるのは自分でありたい、という強い願望。
この感情が何なのかわからないほど、雅人は鈍感ではない。
自分が絢乃に惹かれていることを、雅人は自覚した。
そして自覚した時から、慧の絢乃に向ける感情が普通ではないことにも気が付いた。
それは今日、慧は従兄であると絢乃に聞いた瞬間、確信へと変わった。