蜜愛シンドローム ~ 陥溺の罠 ~【完】
果たして、それができるだろうか。
しかし少なくとも今、絢乃は自分に特別な想いを抱いているわけではない。
それならば・・・。
自らの心さえ騙せれば、あとは容易い。
「・・・何千何万という人間を律そうとする男が、自分の心すら律せないでどうする?」
噛みしめるように低く呟き、雅人は細く長いため息をついた。
熱情に荒れ狂いそうになる心を、氷の理性で冷やす。
───この冷やかさに慣れれば、いつか熱情は消えていくだろう。
・・・そう、いつか・・・。
雅人はそう自らの心に言い聞かせるように、ぐっと手を拳に握りしめた。