蜜愛シンドローム ~ 陥溺の罠 ~【完】



マンションを出た後。

絢乃は宮崎平の駅に続く道を歩きながら、はぁぁと大きなため息をついた。

卓海は一か月間と言っていたが・・・

毎週こんなことをすることになったら、いつかは慧にバレてしまう。

というか既に怪しく思われたような気もしなくもない。

いっそバレてしまった方がいいのかもしれないが・・・

しかしそうなった場合の卓海の報復が恐ろしい。

やがて駅に到着し、絢乃はロータリーの前で卓海が来るのを待っていた。

絢乃は卓海の車を知らないので、どの車がそうなのかわからない。

と、ぐるっとロータリーを見回した、そのとき。


一台の車が、颯爽とロータリーに入ってきた。

屋根にアタッチメントがついた、黒のデュアリスだ。

車は絢乃の前で止まり、やがて運転席から見覚えのある男がすっと降り立った。


会社の時とは違い、無造作に流された艶やかな黒髪。

その均整のとれた長身に、細身の黒ジーンズとレイヤードシャツ、カットソージャケットがよく似合っている。

そして、長い前髪の下の、大人の色気を帯びた茶色がかった二重の瞳・・・。

はっきり言って、尋常ではない格好よさだ。

思わずまじまじと見てしまった絢乃に、卓海はその形の良い唇の端を歪めて笑う。


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