蜜愛シンドローム ~ 陥溺の罠 ~【完】
卓海は呆れたように言う。
絢乃は兄の顔を思い出した。
兄はインドアという印象で、アウトドアという感じはしない。
スキーに行ったというのも初耳だ。
「なかなか上手いぞ、あいつ。大学の頃だったから、サークル間交友ってやつで行ったんだけどな。ま、平たく言えば合コンか?」
「・・・ご、合コン?」
「あいつは頭数合わせで急遽呼んだんだが、女どもの興味を一瞬で攫いやがってな。後でオレが他の男連中から恨まれるハメになったんだよな・・・」
卓海はぼやくように言う。
兄と卓海の過去の話はあまり聞いたことはないが、なんというか、青春という感じだ。
「山の頂上から勝負したこともあったな。そのときはオレが勝ったが・・・」
「・・・そもそも滑り方が違うから当たり前のような気が」
「何か言ったか?」
「イイエ」
慌てて絢乃は押し黙った。
・・・ヘンなことを言ってペナルティを付けられてはたまらない。
絢乃はふと窓の外の景色を見た。
どうやら車は東名高速に乗り、西の方へと走っていくようだ。
絢乃はシートに背を沈め、窓の外に流れていく景色を見つめていた。