蜜愛シンドローム ~ 陥溺の罠 ~【完】
───そして、一時間後。
車は江の島近くの駐車場に止まった。
車から降り立った絢乃の体を、磯の香りがつつむ。
・・・江の島に来るのは久しぶりだ。
しかしなぜ、江の島なのか。
と思った絢乃に、卓海が車のキーを掛けながら言う。
「海鮮なら江の島だろ。今日は海鮮が食いたい気分なんだよ」
「・・・はぁ」
「行くぞ」
言い、卓海はすたすたと歩き出す。
・・・なんというか、やはりマイペースだ。
今日は一日、卓海に振り回されるに違いない。
絢乃は卓海の後に続いて桟橋を歩きながら、辺りを見回した。
・・・どこからともなく、香ばしい香りがする。
ちなみに江の島には、小学校低学年の頃に父と母、そして慧と来たことがある。
あの時、歩き疲れて動けなくなった絢乃を、慧はおぶって歩いてくれた。
あの頃から、慧は過保護だった気がする。
などと昔のことを懐かしく思い出しながら歩いていた絢乃の手が、ふいにぐいと掴まれた。
はっと顔を上げた絢乃を、卓海がとある店の前へと引き寄せる。