蜜愛シンドローム ~ 陥溺の罠 ~【完】
「おい、お前はどれがいい?」
「どれって・・・」
見ると、店先で食べ歩き用の煎餅が数種類売られている。
さっきから香ばしい香りがするなと思っていたのは、どうやらこれだったらしい。
「オレは七味。何も言わないと、お前もオレと同じになるよ?」
「えっ!? ・・・ちょ、ちょっと待ってください」
絢乃は慌てて醤油がいいと主張した。
やがて煎餅売りのおじさんがそれぞれ、七味と醤油の煎餅を焼いて厚手の紙に挟んで渡してくれた。
・・・とても香ばしい、いい香りがする。
と渡された煎餅を見ていた絢乃だったが、再び手を掴まれ、驚いて顔を上げた。
「歩きながら食うぞ。まだ先は長い」
「・・・は、はい・・・」
繋がれた手がじんわりと熱い。
正直、ここに来るまではどんな鬼畜なデートになるのかと思っていたのだが・・・。
思った以上に普通のデートだ。
・・・今のところは。
卓海に手を引かれ、絢乃は江の島の参道の方へと歩いて行った。