蜜愛シンドローム ~ 陥溺の罠 ~【完】
『・・・女と江の島に来たのは初めてだ。他の女だと、そもそもここに連れてくることすら難しい』
『・・・?』
『ピンヒール履いてる奴を階段やら岩場だらけの島に連れてこれるかっつの。築地も同じだ。ノタノタ歩いてたらターレーに轢かれちまう』
ターレーというのは築地の中で良く使われている荷役車のことで、構内をかなりのスピードで走っているらしい。
見たことがないのでよくはわからないのだが・・・・。
『その点、お前はオレが思った通りスニーカーで来たな。出来の良い道具でオレは嬉しいよ』
卓海は目を細め、ニヤッと笑って言う。
その性悪だがどことなく色気を感じる瞳に、絢乃はなぜかドキッとした。
どうやら、これまでの彼女とは江の島に来たことはないらしい。
そして恐らく、築地にも行ったことはないのだろう。
そのことを、心の片隅でごくわずかながら嬉しいと思う自分がいる。
なぜなのか、自分でもよくわからないのだが・・・。