蜜愛シンドローム ~ 陥溺の罠 ~【完】



───ざわざわと、人が行き交う気配がする。

瞼の裏で、チカチカと微かな明りが点滅する。


「・・・おい、着いたぞ。起きろ」

「・・・・」

「起きろ、絢乃」


耳に響く、低いテノールの声。

・・・耳に心地よい、その響き。

鼻先にふわっと香る、甘くて透明感のあるフゼアの香り。

なんだかとても心地よい・・・。


「・・・・・」


しばらくの沈黙の後。

浅い眠りの中を揺蕩っていた絢乃のすぐ傍で、衣擦れの音がした。

ふいに、フゼアの香りが強くなる。

そして頬に触れる、少しひやっとした感触・・・。

・・・指先だろうか。

ゆっくりと睫毛を瞬かせた絢乃の目前に、鮮やかな茶色みを帯びた瞳が映る。


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