蜜愛シンドローム ~ 陥溺の罠 ~【完】
10分後。
今日のことを一通り話した絢乃は、リビングのソファーの上で縮こまっていた。
もちろん、『オレの女になれ』と言われたことや、帰り際にキスされたことは慧には言っていない。
上目づかいで慧を見る絢乃の前で、慧は大きなため息をついた。
「・・・おれの知らないうちに、なぜそこまで仲良くなってるわけ?」
「いや、仲が良いってわけじゃ・・・」
「仲良くなければ二人で江の島になんて行かないだろ?」
一般的には確かにそうかもしれない。
しかし、決して仲が良いわけではない。
少なくとも絢乃にとっては。
「一体アイツ、何考えてるんだか。・・・アヤ、気を付けなよ? あいつは人の想像が及ばない世界で生きてるヤツだからね?」
「う、うん・・・」
それは絢乃もそう思わなくもない。
こくりと頷いた絢乃を、慧は正面からじーっと見つめる。
いつも春の陽光のような明るさを湛えた瞳が、今はどこか影を帯びている。