蜜愛シンドローム ~ 陥溺の罠 ~【完】
<side.卓海>
───絢乃を宮崎平に送り届けた後。
卓海は三軒茶屋から首都高に乗り、北東方面へと車を走らせた。
卓海の家があるのは足立区で、ここからは車で一時間ほどの距離だ。
「・・・・」
卓海は運転しながら、別れ際の絢乃との会話を思い出した。
・・・なぜ自分は、あんなことを口走ったのか。
そして・・・
なぜ、絢乃にキスしたのか。
そもそも・・・
『オレの女になれ』と言ったのも、半ば衝動的だった。
あの日、絢乃と雅人が新宿で夕食を共にしたと聞き、卓海の胸に強烈な黒い感情が一瞬にして湧き上がった。
───なぜ自分の道具である絢乃が、雅人と食事に行くのか。
例え成り行きだとしても、到底許せることではない。
絢乃に、自分の道具だと認識させるためにはどうするのが一番効果的なのか・・・。
そしてとっさに口から出た言葉が『オレの女になれ』だった。
一か月と期間を区切ったが、卓海としては期間を区切っても区切らなくても、どちらでもよかった。
区切ったのは、絢乃がそれなら受け入れるだろうと思ったからだ。