蜜愛シンドローム ~ 陥溺の罠 ~【完】
───絢乃は、自分が楽しむための道具だ。
だから所有したいと、支配したいと思うのは当然だ。
絢乃が望む、望むべくに関わらず。
・・・そう、思うのに・・・
あの黒い瞳を思い出すと、なぜか胸が掻き毟られるように痛む。
先ほどまで、隣の助手席に凭れ掛かって眠っていた絢乃の姿。
・・・まるで卓海に心を許したかのように、無防備に眠るその姿。
絢乃の寝顔を見つめているうちに、いつのまにか引き寄せられるように唇を重ねていた。
とっさに『遊び』だと取り繕ったものの、卓海はこれまで、どんな女にもあんなキスをしたことはない。
・・・欲望のキスではなく、心を重ねるかのようなキス。
なぜあんなキスをしたのか、卓海自身にもわからない。
ただ、ひとつだけわかっていることがある。
それは。
───卓海と絢乃の気持ちの間には、深い隔たりがある。
別れ際の会話で、卓海はそれを痛感した。
絢乃は卓海のことを男と認識してはいるが、それ以上の感情は抱いていない。
その事実は、卓海の心に鋭い棘のように突き刺さった。