蜜愛シンドローム ~ 陥溺の罠 ~【完】
やはり、絢乃は他の女とは違う。
擦れてもなく、媚びることもない。
ましてや、自分を好きなフリをすることなど、まずありえない。
・・・女によっては、平気でそういうことができる者もいる。
けれど絢乃は、そういった女達とは明らかに一線を画している。
絢乃が自分に向ける表情や感情は、そのまま絢乃の心を表したものだ。
───絢乃は、道具だ。
自分がここまで胸を痛める必要はない。
そして、ひとつの道具に執着しすぎると壊れた時に替えがきかなくなる。
ひとつの道具に執着せず、他の道具にも目を向けた方がいい。
・・・そう、思うのに・・・。
卓海は唇を噛みしめ、ハンドルをぐっと握った。
・・・そのとき。
ピピッという音とともに、携帯にメールが入った。
液晶に表示された名前から、どうやら慧のようだ。
卓海はナビで近くの休憩エリアを確認し、ハンドルを切ってすっと入った。
車を止め、内容を確認する。
『絢乃の件で話がある。今度の土曜、15:00に渋谷中央改札で待っている』
・・・頭がいい男は勘もいいのだろうか。
しかもわざわざ土曜の午後を指定してくるとは・・・。
卓海はひとつ息をつき、パタンと携帯を閉じた。