蜜愛シンドローム ~ 陥溺の罠 ~【完】
墓参りの後。
二人は再び電車に乗り、池袋へと向かった。
池袋に来るのはこの間のセミナー以来だ。
ロールケーキ博覧会が開催されているナンダタウンは池袋サンシャインの中にあり、サンシャインまでは繁華街と地下道を抜けていかなければならない。
繁華街には多くの人が行き交い、客引きが若い女性にひっきりなしに声をかけている。
化粧品の勧誘だったり、はたまたキャバクラなど夜のお仕事の勧誘だったり・・・。
絢乃はこういう勧誘があまり得意ではない。
声を掛けられると、なかなか無視することができないからだ。
うーん、と内心でため息をついた絢乃の肩を、隣にいた慧がポンと叩く。
「すごい人だね」
「うん」
「・・・アヤ、ちょっと我慢して?」
───言葉とともに。
慧の手が背の後ろに回り、絢乃の体をぐっと引き寄せた。
ふわりと香る、甘く柔らかいウッドノートの香り。
思わずドキッとした絢乃の顔を、慧が至近距離から覗き込む。
「カップルと思われた方が声を掛けられないだろ? ・・・繁華街を抜ければ地下道に入るから、それまで我慢して」
「あ、うん・・・」